塗料の化学

2025.10.14

塗装は化学×工学×運用の“総合格闘技”。 塗料は「樹脂(バインダー)」「顔料」「溶媒」「添加剤」からなる機能材料。その性質を知れば、見積書の“製品名”が意味をもつ設計判断に変わります。ここでは樹脂/顔料/添加剤/硬化機構/表面科学まで、現場が得をするレベルで解説。🧠

1. 樹脂(バインダー)の役割と違い 🧵

アクリル:耐候・価格のバランス。外装はラジカル制御型で一段上の耐候へ。

シリコン:耐候◎、汎用。近年はラジカル+低汚染の複合が主流。

フッ素:艶保持・耐候最上位クラス。沿岸/強日射で投資回収しやすい。🛡️

無機(セラミックハイブリッド等):無機骨格で紫外線に強い。硬質傾向のため、割れ追従は下地・仕様で補完。

ウレタン:柔靭性・付帯部◎。屋内や鉄部にも。

エポキシ:下塗/防錆の王道。上塗にすると黄変しやすいので用途選定が肝。

覚え方:柔→ウレタン、密着→エポ、耐候→シリコン/フッ素/無機。組み合わせで“層”として性能を出す。

2. 顔料の科学 🎨

白顔料(TiO₂):高隠ぺい・高反射。ただし光触媒的ラジカルが発生しやすいので、ラジカル捕捉剤で抑える設計が主流。

有色顔料:無機顔料は退色に強い/有機は鮮やか。外装は無機ベースが無難。

近赤外反射顔料:黒・濃色でも遮熱を底上げ。屋根に有効。☀️

3. 添加剤の舞台裏 🧪

レベリング剤:刷毛目・ローラー目を軽減し鏡面性UP。

消泡剤:ピンホール抑制。過剰でクレーターになることも。

UV吸収剤/HALS:紫外線で生じる劣化ラジカルを捕捉し、艶引け・チョーキングを遅らせる。

防カビ・防藻剤:北面・日陰の生物汚染に効く。ただし清掃運用とセットで真価。

4. 硬化のしくみ(乾燥ではなく“反応”)⚗️

物理乾燥(水性・溶剤の揮発):早いが耐薬品・耐溶剤は中庸。

酸化重合(アルキド等):酸素と反応し硬化。黄変・べたつきに注意。

縮合/付加反応(2液ウレタン・エポキシ):化学反応硬化で高耐久。**可使時間(ポットライフ)**管理が命。

UV硬化:床・ライン等で高速施工。屋外は紫外線条件の安定性に留意。

5. ラジカル制御とは何か 🌞🧯

紫外線で顔料や樹脂から発生するラジカルが塗膜を壊す。

HALS/UV吸収剤、高耐候樹脂、シェル構造などでラジカルを発生させない/無害化。

効果は艶保持率やチョーキング発現時期で現れる。南面ほど差が出る。

6. 低汚染・親水/撥水の表面科学 💧

親水系:雨でシート状に流下→汚れ抱き込み。垂直面で有利。

撥水系:付着抑制・落書き対策等に強み。水平面や手垢の多い部位向け。

答え:部位で使い分け。外壁は親水、付帯や手すりは撥水/低表面エネルギー系など。

7. 界面と密着(プライマー適合)🧲

密着は表面エネルギー×粗さ×化学結合の勝負。モルタルは浸透シーラー、金属はエポキシ防錆/メッキ対応、サイディング意匠面はクリヤなど適合がすべて。

可塑剤移行(塩ビ)にはノンブリードプライマー。

8. 艶・肌と感性🪞

艶ありは新築感・清掃性、艶消しは落ち着き・意匠。外壁は3〜7分艶でバランス良。

肌:レベリングが高いと映り込みが増え、下地粗が目立つことも。面出しが先。

9. 典型不具合の化学的原因と手当 🩺

白化(ブラッシング):湿潤硬化・可塑剤・低温。→露点管理/可塑剤対策/乾燥延長。

ピンホール:泡・揮発溶媒。→消泡/希釈・攪拌見直し/薄付け。

艶ムラ:吸い込み差・ロット混。→下塗厚/缶管理。

10. 製品選定の思考順序 🧭

基材と環境(沿岸・南面)

必要耐久(更新周期)

低汚染・防藻など機能

意匠(艶・色)

VOC/臭気(生活・近隣)



次回(第7回)は水性・弱溶剤・2液型の使い分け。臭気・安全・密着・天候リスクを表で比較し、現場判断を体系化します。💧🛢️⚗️

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